2009 千代田学

2009年度「千代田学」に、稲垣研究室の「千代田区の地域コミュニティをつなぐアート・プロジェクトの実践と研究」採択されました。

1.事業の名称
千代田区の地域コミュニティをつなぐアート・プロジェクトの実践と研究

2.事業の目的及び内容
事業の目的
稲垣立男及び法政大学国際文化学部稲垣研究室はこれまでに地域コミュニティや地域に住む個人を取材し、その成果を基とした仮設の博物館をつくる、あるいはこどもたちとのワークショップや共同制作など地域の人々とのコラボレーション/共同作業を前提としたアート・プロジェクトを数多く実践している。これらの実践については、地域に住む個人と個人を結び、そのことを契機として人々のアイディアの行きかう、有機的な交流を作ることを主な目的としており、実施したプロジェクトの多くは地域の人々に歓迎され、タイ・チェンマイにおける一連のプロジェク(2007~)や茨城県守谷市におけるワークショップ「おやこで楽しむアート」(2007~)などのように、地元の要望により複数年にわたって継続されるものも出てきている。

これらプロジェクトの具体的な目的としては、
1 地域をテーマとした一連のアート・プロジェクトを通じての地域の活性化をはかる。
2 地域を取材した仮説の博物館やキャプションを地域の人々と協力してつくり、老人から子供まで幅の広い世代間交流の場をつくる。
3 地域の人々からの情報発信により、外部の人々(国内外)との交流する環境を準備する。
4 こどもたちとの体験学習型ワークショップにより子供たちが地域を学習する機会を提供し、未就学児については教育的効果とともに地域の子育て支援に協力する。
5 上記の事柄を実践して地域の目指す「元気で仲のよい」地域づくりのお手伝いをする。

などが挙げられる。
今回平成21年度千代田学事業として提案する「地域コミュニティをつなぐアート・プロジェクトの実践と研究」においても、これまでに実践してきたプロジェクトの研究成果を基に、千代田区の人々との共同作業によるプロジェクトに関する実践と研究を考えている。個人と地域が現実的につながりを持ちにくいと思われる都心部において、人と人をつなぐ役割を持つこれらの実践はより意味をもつと思われる。千代田区との関連性/区の現状・特徴等に関する着眼点や、研究によって千代田区に与える効果については、区民の老齢化に加えて割合で27倍という昼夜人口の大きく異なることや外国人登録者の増加など、近年大きく様変わりをしている。このような時代の大きな変化のなかで地域コミュニティについても世代間や国際的な交流などこれまでとは違ったアプローチが必要になってくるであろう。また『千代田区次世代育成支援行動計画』(平成16年10月千代田区発行)にもある「地域の育児力を回復するとともに、地域のきずなを強める」ことは子育て支援において不可欠の課題であり、千代田区の基本理念である「子どもと親の育ちを地域全体であたたかく支えるまちー千代田」の次世代育成支援目標達成のためには、また「共生社会」実現するための「ワーク・ライフ・バランス(次世代育成)施策として、は地域コミュニティのリノベーションは必要条件である。この研究を通じて、こうした千代田区の特徴的な問題について世代や国籍などを超えて複合的に取り組むことで、区内の地域コミュニティの活性化に貢献するとともにこの研究そのものを大きく飛躍させるのではないかと考えている。

事業の内容
千代田区を取材し、地域の様々な人々と共に地域そのものを活性化することをテーマとした事業を複数連鎖して実施・研究する。
1 千代田区在住の区民や在勤の人々への取材を基にした仮設の地域博物館とその記録集
2 千代田区内で体験した思い出深い出来事など、地域に関する人々の様々な記憶を綴った「My Place(私の場所)」プロジェクトの実施と記録
3 千代田区内の育児支援センター、児童館、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校などでの地域に関する取材や鑑賞を基とした体験学習を中心としたワークショップ
1については、千代田区内の公的な施設や空き店舗を利用して実施する。区内の商店街、集合住宅など幾つかのコミュニティに焦点を決め、それらの地域を中心に取材をする。展示内容としては、研究期間中に地元の方々を取材し、特に人々の個人的な体験にフォーカスを当て、生活や思い出を記録したものとしたい。博物館の展示はそれらの取材を元に、写真やビデオ、テキスト、思い出のオブジェクトなどで構成される。
2については、人々の体験についてのインタビューを基にサインボード(キャプション)を制作し、掲示板などを活用して街のなかに設置、街を人々の記憶のミュージアムとする計画である。これらのサインボードを一定期間展示した後、最終的には記憶のマップを作成し、記録集にまとめる。
3については、この事業について理解をしていただける区内施設や保育園・学校と協力してワークショップをすすめる。ワークショップの成果は地域博物館や記録集などにも反映され、各地域にフィードバックされる。

上記3つのプロジェクトは、それぞれが関連を持って実行される。例えば1の地域博物館を子供たちが訪れ、鑑賞することで新たなワークショップ・プログラムに発展させる、ワークショップでの成果物をこの博物館でさらに展示するなど、フレキシブルで有機的な活動としたい。これらのプロジェクトの進行状況などをウェブサイトや地域のケーブルテレビなどで順次知らせていく。このような千代田区におけるプロジェクトの実践と研究を通して人々が繋がり、お互いの様々な考えを交換できる場所を創りだしていきたい。

3.事業実施時期
2009年4月1日~2011年3月31日(2年を予定)
※ 研究の性格上長期間の実践が必要なため、事業終了後も同区内での研究を継続する可能
性が高い。

4.調査・研究の手法
調査に関しては、区民からのインタビューや地域の実態調査と資料・文献を通じた調査が中心となる。実際のプロジェクトやワークショップなどに関しては、実施地域や学校などからの要望などを検討しながら進めていく。また、区の職員の方々にも実際的な協力を願い、大学と区職員が調査・研究等で協働できる仕組みを構築する。これらの実践を円滑に進める為に、コミュニティの行事などにも積極的に参加し、自らが地域の一員であることを旨に調査・研究を行う。研究の進め方としては、研究室のメンバーを中心としてさらに区民からも外部協力者を募集し、多くの人々との交流、共同作業を期待したい。さらに様々な世代の区民からの聞き取り調査やアンケートなどを通じて、最終形態をはっきりと限定せず地域や現場の現状を鑑みていつでも修正できるように研究を進めていきたいと考えている。

5.成果の発表・活用方法
成果の発表・活用方法については、
1 仮説博物館や記憶のキャプションによる区内での展示
2 上記プロジェクトを実施するための取材を基にした記録集
3 ウェブサイトや地域のケーブルテレビなどを通じての情報発信

とする。この実践・研究の成果を通して人々が繋がり、お互いの様々な考えを交換できる有機的な場を創りだしていきたい。一人の人間が持つ多彩な側面や人と人との繋がりを体感することであろう。この研究が私の中のアイディアに留まらず、人々と交流する中で、よりよいものに成長していくことを期待する。

「四番町児童館こどもアート会議」

法政大学国際文化学部教授 稲垣立男

 

こどもアート会議について

 千代田区四番町児童館では、現在「四番町児童館こどもアート会議」を開催している。これは法政大学国際文化学部稲垣立男研究室が平成21年度千代田学事業「研究地域コミュニティをつなぐアート・プロジェ クトの実践と研究」の一環として実施している体験学習型のワークショップで、自分たちの住む「まち」が元気になるようなアイディアの作品を、小学校13年生の子どもたちと研究室の大学生が共同で制作している。

 同研究室ではこれまでにも地域の人々と共同作業で作品制作やワークショップを数多く行っており、越後妻有アートトリエンナーレ(新潟県十日町市)や水都大阪(大阪市)では子どもたちと共同で作品制作を、またタイ・チェンマイのWat Patumtaram保育園やアーカスプロジェクト(茨城県守谷市)において、未就学児のためのワークショップを定期的に運営している。

 今回の「こどもアート会議」では、ワークショップを通じて子どもたちが自分たちの「まち」を考えるきっかけとなり、未来のまちづくりにつながっていくことが大きな目標である。毎回の参加者が同じわけではないので、前回のワークショップに参加した子どもたちが考えたアイディアを、バトンを繋ぐように次の参加者が引き受けて制作するというリレースタイルのワークショップを試みている。また、3月末には児童館からも近い市ヶ谷駅前の山脇美術学院ギャラリーでワークショップの成果を中心とした展覧会の開催を予定している。

 

プログラムについて

 「こどもアート会議」は前半3回、後半4回それぞれ1時間ずつの2つのワークショップで構成されているが、現時点(125日)では前半の「まちのキャラクターづくり」が終了、後半の「おみやげやさんをプロデュース」が始まったところである。以下に実際に実施しているプログラムを簡単に紹介する。

 

Part1「まちのキャラクターをデザイン」(2009年実施)

 研究室の4年生が主体となって考えたワークショップ。まちの中で自分の好きな場所をキャラクターとして表現し、自分たちの思い出や日常からまちを見つめ直し地域社会に興味を持つこと、自分の住むまちのよさを再認識することをねらいとする。

 

その1 まちの地図をかこう(1111日)

 子どもたちそれぞれに「よく行く場所」、「怖い場所」、「ドキドキする場所」、「好きな行事」等を聞き出し、その回答をもとに四番町児童館周辺の地図を作成した。3~4人のグループに分かれ、話し合いながら大きな画用紙に描きこんだ。

 

その2 キャラクターを考えよう(1125日)

 前回作成した地図の中から任意の場所を選んでキャラクターを制作。キャラクターは白い箱段ボールを使い、前後、左右、上から見た立体的な図を、絵の具を使って描きこむ。図書館・青果店・精肉店・写真店・公園・保育園などのキャラクターを考えた。

 

その3 お話を作ろう(129日)

 前回制作したキャラクターが主人公の絵日記を書いてもらう。登場人物は二つのキャラクター(主人公ともう一つ)で、いつどこで何をしたのかを絵と文章で表現した。絵日記の舞台となる場所は第一回で制作した地図内とし、キャラクターになりきって架空の絵日記を作成した。

 

Part2「おみやげ屋さんをプロデュース」(2010年実施)

 この地域に架空の「おみやげやさん」をプロデュース。お店に並べる商品を考えて、実際にその商品を作ってみる。地域のオリジナルのおみやげ品を考えることでまちを考えるきっかけとする。

 

その1 おみやげ品を考える。(113日)

 Part1で考えた「まちのキャラクター」について説明。次のステップとしてまちにおみやげやさんがあったとすればどんなおみやげなのか、おみやげ品のアイディアを考えることにする。まちの特徴を空間的に考えてみる。

 

その2 おみやげやさんのデザイン。(127日)

 前回考えたおみやげ品を販売する架空のおみやげやさんについて、どこに建てればよいのか、どんなお店にすればよいのかをグループで話しあってみる。店名などを考えながらお店をデザインしてみる。

 

おみやげのパッケージを考える。(210日)

 これまでに考えたおみやげ品のパッケージや包装紙などのデザインを考える。

 

実際の商品を飾ってみる。(224日)

 みんなで考えて、じっさいにどんなふうに飾り付けをすればよいのか考えてみる。実際にテーブルの上などに見やすい配置などを考えながらみんなで並べてみる。

 

ワークショップを通じて

 子どもの目線からまちづくりを考えていくというアプローチは、子どもたちだけではなくわたしたちにとっても新鮮な出来事であり、また大学のあるまちのことを考えながら子どもたちと作品制作をすることは、学生たちにとってもユニークな体験になるだろう。

 近年大学生と大学のある町とのつながりが希薄になってきているといわれているが、そうした観点からも今回のような児童館と大学研究室が協力して取り組めるプログラムが今後継続していくことを望んでいる。今後も研究室としては、子どもたちが地域を学習する機会を提供し、地域交流や世代間交流に協力していきたいと考えている。大学と地域が協力してまちづくりをさらにすすめること、「元気で仲のよい」地域づくりのお手伝いをすることを継続していきたいと思う。